劇場版「ソードアート・オンライン」の感想 #劇場版SAO

概要

昨日、劇場版「ソードアート・オンラインオーディナル・スケール〜」(以下「劇場版SAO」)を観たので、以下の観点から感想を述べる。

  • VR/AR/MR技術的観点
  • 映像作品的観点
  • ストーリー的観点

各項について、見出しには主観による5段階での「ネタバレ度」を表記する。

sao-movie.net

本編とは関係ないが、公式サイトの予告編動画→パララックス的演出というスクロールアニメーションがちょっと楽しい。

目次

用語

Pokémon GO Plus (ポケモン GO Plus)

Pokémon GO Plus (ポケモン GO Plus)

VR/AR/MR技術的観点

「ARが普及する」ということはどういうことか(ネタバレ度★☆☆☆☆)

今回は「TVアニメ版SAOのアインクラッド編を飛び飛びで見た」「アスナのおっぱいがとうといことは知っている」というふたりで観に行ったのだが、これには「VR/AR/MRが普及した世界」のイメージを知る「導入編」となる作品かどうかということを知りたかった、というものがある。

ちなみに、ふたりのあいだでは他の候補として、「電脳コイル」と「PSYCHO-PASS」が挙がっていた。結果からいうと、「VR/ARの概念がある程度わかった上で楽しむ作品」ということで認識は(ほぼ)一致した。

劇場版SAOによって描かれる「ARが普及した世界」とは、次の予告映像の冒頭15秒にほとんど集約されているように感じる。


Sword Art Online Ordinal Scale Movie Trailer 4「劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール 」本予告 2017年2月18日公開

この15秒間の間で最初に注目すべきは、「オーグマー」なるウェアラブルバイスのサイズとデザインである。ARが社会に普及するには、現在重厚なヘッドギアであるウェアラブルバイスが、耳にかけるだけでいいというところまで軽量化されなければならないということを示唆している。

次に、「オーグマー」を通して見える世界が一人称的視点で示される。そのUIは既にiOSAndroidのスタンダードとなったUIに限りなく近い。作中では三人称視点での「オーグマー」使用時の描写ももちろんなされているが、傍目には空中でフリック入力をしているように見える。「オーグマー」は「PSYCHO-PASS」の腕時計状のウェアラブルバイスや、ドミネーター同様、指向性描画および音声によって機能するのだ。

ウェアラブルバイスの簡素化は今作の舞台となる2026年を待たずして実現するであろうし、その頃にはUI/UXのよりベストな実装が考案されているはずである。

PROPLICA ドミネーター

PROPLICA ドミネーター

フルダイブ型VRとARの併用(ネタバレ度★★★★☆)

いきなりネタバレ度が上がるので注意してほしい。

今作では、あるシーンで「フルダイブ型VR」とARが同時に使用される。

SAOは元々「フルダイブ型」という、体は眠った状態で、脳だけでMMORPGを楽しむというより進んだVR体験を主題とした作品である。いわば、思想実験の「水槽の中の脳」だ。AR体験が主題となった今作においてそれらはほとんどコミュニケーションツールにとどまっている。

しかし、今作ではフルダイブ型VR空間をARで投射するシーンがある。

これは道理にかなったことである。オンラインゲーム「ソードアート・オンライン」の中において、プレイヤーは3Dのアバターデータである。データである以上、「ソードアート・オンライン」の中の出来事はARとして描画が可能なのだ。

映像作品的観点

スクリーンで「拡張現実」を体感させる(ネタバレ度★★★☆☆)

本作が挑戦したのは、スクリーンで「拡張現実」を実現することであったのではないだろうか。

例えば、一人称的に繰り返し突きつけられる、登場人物がウェアラブルARデバイスを装着した状態での視野や、(しばしばデバイスの中で再生されているように描かれがちな)スクリーンいっぱいのニュース画面によって狙ったのは、ウェアラブルARデバイスを装着して見る世界の追体験だ。

それだけではない。舞台となるのは秋葉原UDXや代々木公園など、実際に存在する施設だ。そして、ARMMORPG「オーディナル・スケール」を起動する際にはARオブジェクトが東京を上書きする様子が描かれる。さらに、執拗に執拗に描かれる実在製品のロゴ、ロゴ、ロゴ。これらは、まさに「現実の伸長」を体感させる仕掛けであったように思う。

これについては「シン・ゴジラ」にも通じるものがあるように思う。映像作品の「拡張現実」への挑戦については、いつか別のエントリで意見を述べたい。

ストーリー的観点(ネタバレ度★★★★★)

ここからは全力でネタバレをする。

白い蝶

今作では、あるキャラクターが登場する際、必ずといっていいほど蝶が飛んでいる。モンシロチョウだ。

これはそのキャラクターを象徴する存在であると同時に、強いメッセージ性を持っており、実際にそのキャラクターが口にするセリフと繋がっている。

栞紐

今作では、データ化が進んだ世界にもかかわらず、紙の本とノートが繰り返し登場し、それらには栞紐が付属している。

この栞紐は、今作の根幹そのもののメタファーだ。

まとめ

  • ARの定着した世界を追体験できるアニメ映画
  • 映像制作業界が「拡張現実」に挑んでいるのを感じる
  • 画面内に大量のヒントとギミックがある

あ、音楽良かったです。梶浦サウンド強すぎて「まどマギwww」ってなります。サントラ買いました。

VR初心者がJapanVR Fest.に行ってきた #JVRfest

概要

「VRは体験してみないとわからない――!」

そう言うVRエンジニアに手引きされて元Web屋もどきがJapanVR Fest.に行ってきた。

http://jvr-fest.com/2017/01/2894/jvr-fest.com

印象に残ったプロダクト

株式会社GATARI「(プロダクト名不明)」(HTC Vive)

「声を発して生まれた映像的な効果を眺めて楽しみ、それを共有する」という体験を。

会場で一番最初に体験したVRプロダクトで、思いっきり感動したのがGATARIの「発声した言葉をオブジェクト化して投げる」というアプリケーション。

実装上、多分すごく難しいことはしていないんだろうな、と思う。音声解析はGoogleAPIを叩けばいいし、Unityなどのゲームエンジンには物理演算が組み込まれているわけだし。

しかしこのプロダクトは、読書体験の新しい可能性を示唆するものだ!

「恥の多い人生を送ってきました」という言葉を投げつけ他の言葉をなぎ倒す快感!太宰治の言葉の圧倒感!

「文学作品を発声する人は初めてです」と言われたが、詩歌を作る自分にとってこれは新感覚だった。

「極楽は丁度朝なのでございましょう」という言葉を天に投げて、それが物理法則に従って顔面に落ちてきたとき、芥川龍之介の洗練され尽くした言葉の普遍性に私は泣きそうになった!

DMMゲームスの「文豪とアルケミスト」というゲームでは文学が「矢」「刃」「銃弾」「鞭」として表現されているが、それを三次元的視覚情報で表現したのがこのプロダクトだと思う。ぜひ出版や資料館などと組んでほしい。

https://gatari.co.jp/gatari.co.jp

株式会社ワンドブイ「SEIYA OculusTouch」(OculusRift+Touch)

運動不足をこじらせて循環器弱ってる私が全力で楽しんで後から胸痛で死ぬかと思ったのがワンドブイのVR音ゲーSEIYA。

http://wandv.jp/service/product/seiyawandv.jp

プレイヤーの身長に合わせたマーカー散布調整がされていないため、身長153cmの私は(ヒールを履いた状態でも)届かないマーカーがあったが、SEGAのmaimaiとチュウニズムが好きな人は間違いなく好きだし近所のゲーセンにあったら通うくらいには好きだ。実際、傍目に見ると「VRヘッドセット装着したロリータがガチダンス」しているという大変ロックな絵面になっていたと思う。録画してもらえば良かった。

maimai.sega.jp chunithm.sega.jp

実際に店舗導入する場合は、以下の調整や追加実装があると私が楽しい。

  • 最初のチュートリアルでプレイヤーの可動域を設定しマーカー散布を再調整
  • スコア表示をより分かりやすくする
  • スコアやコンボによるライブショー的演出

http://wandv.jp/wandv.jp

わぁ!Drupalだぁ!Drupalって文字自分のサイトぶりに見た!

VRプロダクトの課題

UI/UXデザイナーの必要性

今回いくつかVRプロダクトを経験してみて感じたのが、UI/UX研究に割かれている人員が少ないのでは?ということで、実際今日私を秋葉原に連れて行った人間が日々嘆いていることだった。

今回は「お披露目会」だったわけだけれども、製品化するときは口頭で使い方を説明するわけにはいかない。短いチュートリアルや、カーソルのデザインだけでユーザーへの挙動を示さなければいけない。そういったことを考えたとき、仮想現実世界におけるユーザーの「手」となるカーソルのデザインは最重要事項なのではないかと感じた。

仮想現実上で人間の腕は伸長する?

今回個人的に大きな発見だったのが、OculusTouchにせよViveにせよ、コントローラーを持ってしまうと、ユーザーの認識するカーソル位置はコントローラーを握る手でなく、コントローラーの先になるということだ。個人的な感覚かと思ったが、よく考えれば任天堂Wiiのコントローラーはそのように実装されているわけだから、人体科学的に実証されていることなのかもしれない。知らんけど。

VR/ARの到達点は物理的束縛からの解放か

「Tango de えいご」を公開されていたやのせんさん@とお話しさせてもらっていて、自分がVR/ARに求めているものとは「物理的束縛からの解放」なのではないかと思った。話の中で私はやのせんさんに虚淵玄原案の「PSYCHO-PASS」を紹介したが、PPの世界は「ARと機械学習研究が進歩した世界」である。スマートフォンはバイタルチェック&IDデバイスを兼ねた腕時計サイズまで、衣装ホログラム操作デバイスは化粧品のコンパクトサイズまで小さくなっている。

今回紹介したプロダクトでいうと、「SEIYA」のコントローラは、実際にはマジックテープで着脱するリストバンドまで簡素化されるのが理想だ。

他にもディック原作の映画「トータルリコール」が話題に上がった。

まとめ

  • VRによる新しい読書体験をした
  • 優秀なUI/UXデザイナーが求められる業界だと感じた
  • VR/AR/MRめっちゃええやん!

あ、詩歌集出してます。どうでもいいですけど、萩原朔太郎の詩ってVRコンテンツ向きじゃないですかね?

雪解けの日に: 吉野雪緒 詩歌集

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